幼児教育の本をいくつか読んで良かったものを挙げる


TL;DR

  • 最近幼児教育に関する本を読んでいるので、良かったものをまとめておく
  • 一番良かったのは「米国最強経済学者にして2児の母が読み解く 子どもの育て方ベスト」

子が産まれたので子育てをしてるが、この機会にと思って幼児教育に関する本をガッと読んでいる。

他人にお薦めされたり軽く調べてよさそうなものを読んだりしているが、結構似てる話をしているものも多く、なんとなく全体的な雰囲気は掴めてきた。 これ以上あれこれと読まなくてもいいかなと思えてきたので、読んできた本の中で良かったものを 3 つ挙げておく。

自分と似たような思考の人であればとりあえずこの 3 つをお薦めしておけばいいかなという気がしている。

米国最強経済学者にして2児の母が読み解く 子どもの育て方ベスト

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同僚に勧められて読んだ本。

エビデンスに基づく子育て本を色々読んでみたが、最もよく書けているのがこの本だった。
preschool までを対象にしている本なのでそれ以降の教育に関しては別の情報源にあたる必要があるが、それまでであればとりあえずこの本を読んでおけばいいと感じた。

経済学者である著者が実験のバイアスをケアしながら、実体験にも基づいて解説をしている本である。 夫も経済学者であり(本の中で夫の論文が引用されていたりしている)、論文をかなりちゃんと調べていそうで、論文があったとしてもそれが信頼に足るものかを判断していそうなところが凄い。 子育てに関する論文をチェックするという観点で、ここまでの熱量は自分にはないな〜と感じる。

可能な限り定量的でありながら、子どもにとっての効果だけでなく家族全体の効用についても言及したりしていて、納得感がありつつ実践的でもある。 例えば、母乳育児による健康への影響(乳幼児期の下痢や湿疹や発疹や腸炎リスクには好影響がある)や IQ への影響(有意な影響を与えない)などが解説されつつ、金銭や手間の観点も盛り込んでいる。

内容は米国の話ではあるが、国の依存性がそこまで大きくない話が多いので、日本を含む他の国の人が読んでも大いに参考になる。

唯一の欠点はタイトルの煽り方。なんでこんな酷いタイトルしかつけられないのか…自分は同僚に勧められなければ読まなかったであろうタイトルだが、こういうタイトルをつけた方が売れるのだろうというのは虚しさがある。 ちなみに原著は CRIBSHEET (虎の巻、カンニングペーパー): A Data-Driven Guide to Better, More Relaxed Parenting, from Birth to Preschool というもので、洒落てるし本の内容をよく表現していると思う。

幼児教育の経済学

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自分であれこれ調べてるうちに見つけて読んだ本。

幼児教育(就学前教育)への介入が重要であることを過去の社会実験に基づいた分析から著者の Heckman(2000年に個人や家計の行動の統計的分析に関する貢献でノーベル賞受賞)が主張し、それに対して色々な立場の人からの意見をもらっているという本。
幼児教育に関する重要性を述べる本は多いが、ほとんどは Heckman の研究を基にしているので、本人が書いているこの本を読んでおけばいいと思う。

内容は、認知能力と同様に非認知能力を育むことが重要であること、幼児教育への介入が費用対効果が高い(投入するコストに対して将来的に得られる利得が大きい。過去の社会実験では 15% くらいになるみたいで、これは公的教育の ROI とくらべるとめちゃくちゃ高いらしい)ことを論じている。 主張の根拠になっている社会実験(ペリー就学前プロジェクト)が 50 年以上前だったりして以降の別の社会実験ではその再現性に疑問符があったりして、この手の社会実験は本当に効果があるのかを見極めるのが難しいところはあるが、幼児教育への介入の ROI という観点で面白い本だった。 完全にアメリカの話なので参考程度という内容も多い感じだけど。

この本を読んでおけば、幼児教育への介入が重要なので、個人の子育てとしては勉強できるようになってから頑張るのではなくその前から教育を進めた方がよい、公共政策的には限られた予算を幼児教育中心に投入した方がよい、みたいな主張の意図するところを理解できるようになる。

Heckman の議論の後に各分野の専門家によるコメントが寄せられていて、古くてサンプル数が少ない研究をベースにしてる点への批判とかがちゃんと書いてあったりするので、内容を鵜呑みにしないような構成になっているのもよかった。

赤ちゃんはことばをどう学ぶのか

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同僚からゆる言語学ラジオの赤ちゃんの言語習得シリーズ https://www.youtube.com/watch?v=AMIaheSRVew&list=PL911pe0HjN9gufWEDWCoQIsTGkyNSSkor が面白いと勧められて見ていたら、そこで紹介されていたので読んだ本。

赤ちゃんの言語を学ぶプロセスを解明するためにどういう研究をしてどういう結果が得られて、それをどう解釈できるかという解説をしてくれる本。
赤ちゃんの言語習得って考えてみると難しすぎない?という主題に対して、各種の疑問とそれを解消するための実験設計と結果の解釈とを平易な言葉で解説して読みやすい。

興味深い結果としては、音声で聞かせるだけでは赤ちゃんの学びにはならずインタラクション(赤ちゃんの反応を見つつ語りかける)が必要であること、バイリンガルといってもほとんどのケースでどちらか一方の能力の方が高い、など。
この手の話は子育て本にちょろっと書いてあったりするけど、それをどう実験的に明らかにしていくかという過程が垣間見れるので面白い。 この本自体は子育て本ではないけど、子の言語習得教育においても大いに参考になる。

単に動画を見せるだけでは学べないけど、最近の機械学習で赤ちゃんの反応を検出した上で会話をするみたいなのは一定できそうなので、それで学ばさせるとどうなるかとか気になるね〜など想像力も刺激される。

本以外にどういう情報源にあたるか?

ちょくちょく参考にするのは以下の学会のウェブサイトである。 子が新生児なので幼児教育というより医学的情報を必要とすることの方が多いのであまり調べてないのだけど、幼児教育関連であればとりあえずここを見とくと良い、みたいな情報源が存在するのかは分かっていない。

論文が公開されてるんだから気になったものは全部自分で論文を調べればいいのではないか?という考えもあるが、あらゆるものを自分で調べるというのはそもそもの分野への興味とか手間とかの観点から難しい。
自分の場合はよさそうな本をある程度ガッと読んで雰囲気を掴み、そこでは得られなかったけど自分にとって興味のある事象に関しては関連しそうな研究を自分で調べたり同僚の医師に教えてもらったりしている。

具体的には、歩きながら抱っこすると明確に泣き止むよなと思って理由を調べてたら輸送反応が関係している研究 https://www.riken.jp/press/2013/20130419_2/ を見つけてそれを読んだり、子を毎日沐浴させる必要性ってあるんかと思って聞いたら同僚に関連している研究 https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/record/48701/files/A32822.pdf (PDF 注意) を教えてもらってそれを読んだり、みたいなことがあった。

まあでも門外漢にとってはちゃんとした本にまとまってくれてるのが嬉しいですね。

まとめ

幼児教育に関する本を色々読んで雰囲気を掴んできたので、特に良かった本を 3 つ挙げてみたというエントリ。