2020年に読んだ本を一言コメントと共に振り返る


TL;DR

  • 2020 年に読んだ本を可能な限り思い出して振り返ってみる
  • 詳しい書評を書くのはキツいので一言コメントを添えて
  • 仕事を始めるということで組織系の本が多め。技術書は少ないな〜

2020 年に読んだ本を思い出せる分だけ一言コメントと共に振り返ってみる(記録を残してない書籍もあるが、それらは無視)。 雑に技術書と読み物に分けて、雑多に書いていく。

一言コメント、と言いながら結構な量のコメントな気もするが、気にせずいこう。

技術書

  • Google BigQuery The Definitive Guide amazon へのリンク
    中の人が書いた BigQuery の入門書的な本。 SQL の基本は分かってるけど BigQuery は触ったことない人、くらいのレベルがターゲットだろうか。 BigQuery の外観、SQL の基礎、から始まって、BigQuery の構成や パフォーマンスチューニングや advanced なクエリを紹介する。 Python との integration や ML、セキュリティなどに関しても記載がある。 狭すぎず広すぎず、浅すぎず深すぎずという感じで自分にはちょうど良かった。 個人的には query を投げてからどうやって Dremel (query engine) に到達するかという話や、replication がどうなっているかなども(仔細にではないが)書いてあったりして面白かった。 実用書として考える場合、もう少しパフォーマンスと advanced クエリの章が厚ければ尚良かったかなぁという感じ。 GCS を使った federeted query とか、LR から DNN まで実装されている BigQuery ML とか、サービスが豊富で開発頑張ってるなぁというのを感じさせてくれる。 仕事で BigQuery 使ってるので、最初の羅針盤としてなかなか良い本であった。

  • 入門ベイズ統計 意思決定の理論と発展 amazon へのリンク
    ベイズ 統計の本で医療応用とかも書いてあるので読むといいと勧められたので読んだ本。 入門ということで広く浅く(一部ランダムウォーク周りとかグラフ理論の辺りは結構発展的な話題に触れてるけど)という感じであるが、式変形の類は玄人向けな感じなので初学者が読むにはちょっとハードルが高いかもしれない。 一方で具体例が多いというのは初学者向けな感じ。 特別新しい知識が得られるというところまではいかなかったが、確かに 8,9 章の医療応用は読みやすくて参考になった。

  • 科学と証拠 ―統計の哲学 入門― amazon へのリンク
    ベイズ主義、頻度主義、尤度主義などの統計における様々な立場を、統計学者ロイヤルの(1)現在の証拠から何がわかるか(2)何を信じるべきか(3)何をするべきか、という問と対応づけながら解説してくれる本。 原著は Evidence and Evolution: The Logic Behind the Science という生物学が主たる題材となっている本だが、この第一章の統計と哲学の部分のみを切り出して訳出したのが本書である。 ものすごく丁寧に訳がしてあり(それでも難しい部分もあるが)、脚注も充実していてかなりの力をかけて翻訳していることが伺える。訳の過程で原著にも update がなされたことも巻末に記載してあり、これくらい力を入れてくれるならば翻訳版を読む価値があるなと恐れ入った。 自分としては、ある仮説とそれ以外の仮説(キャッチオール仮説)は全て尽くすことができない(適切な事前確率が与え難い)場合に、ベイズ主義から離れて明確な仮説同士を比較する立場を取る尤度主義の存在は知らなかったので勉強になった。 自然と使ってきてはいるものだったけど、自分の考えが何に立脚しているかというのは状況に応じて(勝手に)変えていたことが自覚できたので、そういうのの整理としてとても良い本だった。 それ以外にも AIC の話とかは統計の典型的な本に書いてある内容よりも段違いに深い。 予測の正確性を推定するという目的で構築された指標であること、それは平均尤度を推定するという目的である BIC とは目的そのものが異なること、適用範囲として入れ子モデル以外も含まれること(これは自分はどこかで入れ子モデルしか本来的には使えないと聞いていたが誤りだった)、外挿ではなく内挿であることをしっかりと説明していること、など良い内容であった。 頻度主義的な概念でありながら、尤度の法則でいうところの証拠と関連がつく(したがってベイズ主義や尤度主義の立場からも受け入れられる)つき、モデルには道具主義として適合モデルには実在論とするという興味深い主張もしている。この辺はまだ十分咀嚼できてないが、読み応えがある。 これを読んで実用的にめっちゃ役に立つという類の本ではないが、自分の考えが何に立脚しているのかを見つめ直すのは面白い体験でもあったので、折に触れて読み返して理解を深めていこう。

  • ベイズ推論による機械学習入門 amazon へのリンク
    ベイズの復習するか〜と思って買ってみた本。 内容がぎっしり詰まっているので、ページ数の割にカバー範囲が広いし数式も丁寧に書いてある。確かに最初に入門する本としては優秀だと感じる。 混合モデルと近似推論でガウス混合モデルばかりやりがちだが、それよりもわかりやすいものとしてポアソン混合モデルを扱っている点はいいなと思った。 第5章の応用モデルの構築と推論でも様々なものを取り上げていて、非負値行列因子分解とか隠れマルコフモデル(特に完全分解変分推論と構造化変分推論)とかは良い復習になった。 (想像できていたことだが)ただ全体的にやはりほとんど知ってる内容だったので、流し読みした部分が多かった。具体的な計算がまた必要になったりしたら参照するのには良さそう。

  • Python の黒魔術 BOOTH へのリンク
    技術書典で買った本。技術書店で買った本の中では圧倒的にしっかりと書かれていて内容もしっかりしていたので満足度が高かった。 黒魔術という名前は怪しげだが、Python の中級者が Python でどのような処理が実際に行われているかを理解したりするのに役立つ教育的な本であった。 自分の中で面白かったのは、以下の章。 第5章の関数とコードオブジェクト。 Python のバイトコードをオブジェクト化したコードオブジェクトをいじってファイル名とか開始行番号とかを取得できることを見る。関数の開始行番号を使って unittest の表示順をアルファべティカルにしたりできる。 第6章の抽象構文木。 ページ数はあまり割いてないけど、抽象構文木のトラバースやコンパイルの基本を理解して、assert 文を書き換えて第二引数を不要にするという実例も面白かった。 第8章のディスクリプタ。 ディスクリプタは Python 独特の属性の読み書き制御機能で、@property などの実装に関わっている。定義的には __get__(), __set__(), __delete__() のどれかを持ってるオブジェクト。 instance メソッドや class メソッドや static メソッドで何が行われているのかが理解できる。 第11章の例外とトレースバック。 sys.excepthook という例外ハンドラを自分で置き換えてトレースバックを変更したり表示カラー化をしてみるという章。トレースバックこうなってたのねというのが理解できるのがよかった。

  • Visual Studio Code Ninja Guide BOOTH へのリンク
    VSCode の how to 的な本。自分が知らないことがそんなになかった感じなので、結構初心者向けだったかな。もう少しマニアック(ユースケースは限られるけど利便性は高い、みたいなやつ)なのとか知りたかったな。

  • GitHub Actions 実践入門 amazon へのリンク
    GitHub Actions 事始にちょうどよかった。ちょっと基本的機能の羅列が多かったのでもう少しサンプルを豊富にしてもらいたいところはあったが、触ってみて自分で欲しいものとか作り始められたのでよかった。

  • レガシーコードからの脱却 amazon へのリンク
    レガシーコードはヤバイのでアジャイルに小さく進めていくのが変更が不可避であるソフトウェア開発においては正しい、という話とそれを実践するために Scrum やテスト駆動開発のトピックを取り出してプラクティスとして解説するという本。 そんなに新しい知識はなかったのだが、CHAOS レポートという THE STANDISH GROUP というソフトウェア業界を対象とする調査期間のレポートを紹介しているのが面白かった。 365 社の 8380 のアプリケーションを {成功、問題あり、失敗} に分類して成功なんてよくて 4 割という話をしている。この分類基準は納期に間に合った的な話なのであまり良い基準ではないのだが、ソフトウェア開発の失敗による巨大なコストに関して議論されているのはなかなか興味深いところであった。 最近はどうなんだろうと思って調べたけどパッと pdf が出てきたのは 2015 で、成功とかの定義を valuable, ongoal, satisfactory などの要素で見積もったりして、価値を届けるというところにちゃんと移行しているようだ。詳しい定義は読んでないけど 2015 は successfull : challenged : failed = 29% : 52% : 19% とのこと。

  • Rust プログラミング入門 amazon へのリンク
    Rust の特徴や基本を解説し、簡単なプログラムを実際に書いてみて Rust に触れることができる一冊。 Rust のゼロコスト抽象化とか所有権・借用とかをある程度把握できたのはよかった。 比較的新しい言語なので、色々な言語で明らかになった有用な機能は一通り揃ってて安心感があるし、cargo で linter とかも含めてだいたいの必要なことができるってのもシンプルで楽だね。 wasm はちょっと触ってみたかったので、概略と、具体的な例としてマンデルブロ集合とナンバープレースの例が 2 つ紹介されてるのはよかった。 組み込みシステムで使うと型による情報が有益になりそうでいいね。 本では L チカくらいしか紹介されてないけど、実際にどれくらい使われてるのかは気になるところ。 書いてる人がよく知ってそうなので、入門書ではあるけど随所にちょっとずつ詳しい話が盛り込まれてるのもよかった。ただ内容を色々入れようとして、実装例は簡単なものに留まって出来上がるものにちょっと面白みがないなという感じだった(入門、ということで意図的にそうしてるとは思うけど)。

  • データ指向アプリケーションデザイン amazon へのリンク
    システムのアーキテクチャの理解をデータの観点から深めるのに役立つ一冊。 基本的なデータモデルやストレージやエンコーディングについて解説をした後、分散データに関して重要となるトピック(トランザクションや合意など)を解説し、最後にバッチ処理やストリーム処理に関して言及している。 自分は知識がないので Bツリーとかエンコーディングの基礎的な解説か、CAP定理が実用上有益でない(フォールトについてネットワーク分断のみを取り扱っていてノードが落ちてる状況のような実際によく遭遇する状況は範囲外としているので狭すぎる)という議論、2PC などなど、色々勉強になるところが多かった。 いろいろな知識について幅広く提供してくれているので、今後も何度も見直すことになりそう。 ただ後半はトピックの羅列という感じでちょっと読むのがしんどかったな。

読み物

  • 闘うプログラマー amazon へのリンク
    Windows NT の開発ストーリーを実際の開発者の多くにインタビューして綴った本。 巨大で複雑な OS を作り上げることが如何にエネルギーが必要であることを見せつけられる。ハードに働く人がこんなに大量に集まるというのも、ソフトウェア業界が大きく発達する潮目だったからなんだろうなと思わせる。 いわゆるドッグフーディングの Eating your own dog food も、大量のバグを炙り出してそれを修正するためにこのプロジェクトで初めて大々的に取り入れられたものだと知った。 この頃はまだテストに対する理解が浅かったことも伺えるし、複雑なソフトウェアを作り上げるのがとにかくめちゃくちゃ大変だというのが至る所で強調されている。そしてそれに関わる人間模様は確かに読んでいて面白い。 自分がこんなに大きいソフトウェア開発に携わることもないかもしれないが、まあよほどのインセンティブがないとやれないよな、などと思った。

  • 文芸的プログラミング amazon へのリンク
    文書整形言語とプログラミング言語を組み合わせて、説明的にプログラミングするスタイルを文芸的プログラミングと呼んでいる。 WEB システムという一つのソースコードから TeX と Pascal のソースコードを作成するものを作り、WEAVE というコマンドで TeX ソースコード を作成して TANGLE というコマンドで Pascal ソースコードを作成する。 学生に説明するモードでコードを書くときはミスが少ないということに気づき、それをシステムによって強制することで人にとって読みやすい (literate) なプログラムを書けるようにしたとのことである。 雑に言うと TeX のソースコード で文章を書きながら中にプログラミングを挿入していくような感じ。 今は明らかに使われなさそうだけど、当時はいろんな人が使ったりしたのだろうか? この本自体はいろんなトピックの寄せ集めになっていて、例えば go to 文を用いた構造的プログラミングという話はだいぶページを割いて説明している。 お話し的な本かと思ったらコードもたくさん出てきて読むのになかなか集中力が必要だった。go to なしネイティブ世代が読んでもそんなに面白くもないのでは?と思う。 面白かったのは TeX 開発におけるエラー記録の話。 エラーの数や種類をずっと記録していて、その推移や特徴的だったエラーについて解説している。例えば行分割のアルゴリズムの変更などが言及されている。 エラーの推移は最初はバグの処理が多いけど徐々に機能改善が増えていく様子とかを可視化していてなかなか面白かった。 広範囲の内容を一つの本にまとめているので、関連性やまとまりはそんなになかった。

  • 独創はひらめかない amazon へのリンク
    computer vision の大家である金出武雄氏が書いた思考法的な本。思考法というとハウツー的な安っぽさを感じるかもしれないが、自身の体験を基にして様々な考えを述べていて実に面白い。 「素人発想、玄人実行」が特に有名で発想は素人のように単純で誰が聞いても分かるようなものがいいけど、プロはそれを実現する人である、というメッセージ。 これ以外にも実行力を重視しているというのがいろんなところに垣間見れる。 研究者では解く価値のある問題を探すことが重要だし本書でもそれを述べているが、それ以上に簡単な例題から考えてそれを解き切って発展させていけという姿勢が伺える。 ごちゃごちゃ言ってないでやろうぜ、という気分にさせてくれる。 英語には Keep It Simple, Stupid で KISS でいけ!という言い方があるらしい。 ストーリーとして語れるのが良い研究だという話が出てきて、これは色んな物事に共通しているよなと思う。 良いアイデアは聞いていて面白いものだし、こんなことができそうだと聞く側の想像力も高めてくれる。 自分なんかは局所的に物事を考えがちな傾向があるから意識していかないとな。 萌芽となりそうなアイデアがある段階でも隠さずにどんどん人に話してった方が磨かれるし、盗まれたって実行する奴なんてほとんどいない、という信念も同意するところだ。 この本が読んでて面白いのは本人が体験したものをベースにしていて話に血肉が通っているから、という感じがする。この人は会って話したら絶対に面白い人だな、というのが伝わってくる。子供の頃のエピソードがちょこちょこ入ってくるけどどれも面白い。古文が苦手だったけど本にこうやって五回読めというからガチでやったら本当に困らないほど理解できた、とか普通の人では実行し切れないところを平気でやれる人だったみたい。 この本を読むと研究に限らず、楽しい (exciting) ことをしようと思える。

  • The Elements of Style (Fourth Edition) amazon へのリンク
    英語の文章をいかにして書くかということを指南した本。 小説とかの文章ではなく、新聞とか technical writing で読者に分かりやすい文章を書くための基本が書かれている。 全然自分が知らないことがたくさん書いてあったので、かなり役に立った。 一方で、読んでて普通に分からない単語もたくさん出てきて、自分の英語力の低さを痛感した。 短い割によくまとまっていて、今後も何度か読み返していく価値がありそう。 chapter 1 は間違えやすい基本的なルールみたいなことが書いてあり、例えば独立な二つの句をつなぐときの接続詞の前にはコンマを入れるとか、二つの独立な句を接続詞なしでつなぐ場合はセミコロンを使う、というようなルールが列挙されている。 chapter 2 は文章構成の指針を示すもので、できるだけ直接的に表現するために能動体を使うべしとか、単語の位置は重要なので関係している語は近くに来るようにすべし、などが書いてある。 chapter 3 は体裁の部分で、margin の取り方とか数字は対話を表現する場合以外はアラビア数字で書きましょう、みたいなことが書いてある。 chapter 4 はよく間違って使われる単語が紹介されている。例えば however は nevertheless の意味で文頭に使うのはよくない、文頭に使うのは However you advice him, のような in whatever way 意味のときだけにせよ、のようなことがたくさん紹介されている。 chapter 5 はスタイルに関してで、Be clear や Do not Overwrite など、明瞭な言葉で読者に伝わるためにこう書くべしという方向性が列挙されている。英語に限らず technical writing 一般に役立つ内容。
    (追記)
    この本は文法に詳しくない作者によって書かれ、特に信ずる理由のない記述がいくつも含まれているという指摘がありました。上の書評で書いた内容も英文法的に正しくないものが多いので、真に受けず正しい文法を学んでください(自分は真に受けてしまいましたが、リプライ https://twitter.com/polm23/status/1343874246557110273 をいただいて気付けました)。この本に誤りが多いことは https://www.chronicle.com/article/50-years-of-stupid-grammar-advice などにも書いてあります。

  • みずほ銀行システム統合、苦闘の 19 年史 amazon へのリンク
    合併後と東日本大地震後に経験したシステム障害と、その後長年に渡り苦闘してついに完成したみずほ銀行の勘定系システムの刷新について解説した本。 まず規模がデカい。 35 万人月という工数、参加ベンダーが 1,000 社、ということで、遅れに遅れはしたがついに完成したということでよく頑張ったなぁという感じ。 第一部は新システムの概要で、20 年も昔の巨大かつレガシーなモノリシックなシステムから、service oriented architecture に刷新して、その完成に大変なコストを支払いましたというお話。 アーキテクチャの話も少しはあるが、それよりは体制とかプロジェクト管理みたいな内容に重きが置かれていて、SIer という感じのテイストだった。 少し前に「闘うプログラマー」を読んで、あちらは人に焦点が当てられていてドラマがあったし、あちらの方が面白かったな。 第二部と第三部は過去の大規模障害の詳細を追うという内容。 昔の担当者しか知らない処理件数上限値で障害が起きたとか、障害が起きてから責任者がそれを認識するまで 17 時間掛かったとか、復旧作業を手作業で頑張ってそこでもミスが生じたとか、まあ酷い話がたくさん出てくる。 COBOL とか PL/I とか金融だなぁと感じさせる語彙が出てくる。 ゆとり世代なので昔の本でしかコード読んだことないよ。 みずほの IT 戦略がお粗末だったのはその通りだしそこから脱却すべく頑張ったのは大変な努力だっただろうと思うけど、それを日経コンピュータが偉そうにあれこれ言ってるという本書のスタイルは好きにはなれない。 結果だけ見て後からこうすべきだったのだ、とかなんとか言ってるのはいただけないし、ちょこちょこ「きっとこのように考えたのだろう」などと勝手な考えを挟んでくるのも気に入らない。

  • Measure What Matters amazon へのリンク
    OKR (Objectives Key Results) と CFR (Conversation Feedback Recognition) を豊富な導入事例を元に紹介する本。 インテルやグーグルといった企業が導入して大きな恩恵を享受しているということで、いまや多くの会社が取り入れている手法である。 この本は、指針となるような(定性的でもよい)目標を定めて、全て達成されれば疑いようなく目標を満足できるという(絶対に定量的でなければならない)主要な結果から成る、というシンプルな OKR がいかにして大きな成果を達成する力となるかということを事例ベースで見ていくものである。 定量的な目標設定がある方が達成確率が高まる、というのは知られていたわけだし OKR 自体に新規性があるわけじゃないと思うが、シンプルさによってこれだけ広まったのだろう。もっと言えばこれくらいシンプルなものじゃないと組織には定着しないのかとも思う。 しかしシンプルさゆえに運用方法が本質的に重要で、ちゃんと機能させるというのは難しい。全社的にやること、選択と集中、上のレイヤーの人が率先してアラインメントを促す、業績評価とは切り離す、などが重要だと感じた。 制度もしくは手法として捉えるのでは OKR は武器にまではなりえず、文化もしくは規範というレベルで使わないといけないだろうなとは感じる。 実際どんなものなのか、これを真剣に取り入れている会社の様子をこの目で見てみたいところだ。 CFR は OKR をうまく機能させるための手段で、適切な方向に向かってモチベーションを保って進んでいくための 1 on 1 が中心となる。 個人対個人のコミュニケーションの側面も強いので、どうすればいいというのは定まってないのでその意味で難しい(定期的な 1 on 1 はなんか儀礼的だなと感じるときもあるし)。 事例の話だと YouTube の話が面白かったかな。OKR とは直接関係するわけではないけど総視聴回数じゃなくて総視聴時間を目標に置き換えた話。

  • Learn or Die 死ぬ気で学べ プリファードネットワークスの挑戦 amazon へのリンク
    PFN の西川さんと岡野原さんが PFN の事業に関して説明している本。 PFI 設立の話やどういう深層学習の登場とそれに注力していくために PFN を作ってスピンアウトさせた話など、会社の成り立ちの話は読み物として面白い。 注力事業としてロボットやバイオに関する話の重きが大きく、読んでいる感じとしてはロボット系に賭けているという印象を受ける。 とにかく技術力を重視しているのというのが伝わってくるし、実際 PFN は優秀な人材がいるという意味ではかなり高いレベルにある会社であるのは疑いようもない。 一方で、凄いサービスを生み出している会社なのかというとそんなことはなく、本書でも製品開発にも力を入れていきたいと述べている。 ただし「こういうことを始めている」とか「こういうこともやりたいと考えている」とかそういう話が多くて、本当に何か大きなサービスが出てくるのだろうかという疑問は拭い難い。 全体的に賢い人たちが技術力をベースに賢く立ち振る舞ってやっていこうとしてる、と感じてしまう。 ファナックとの共同開発では既に実用化されているものがあるという記述もあるが、それくらいだしそこも詳しい話はない。 ということで、帯にある「最先端の技術を最速で実用化する」という宣伝文句も外から見ると「う〜む」という感じを受けてしまう。 実際に何がどれくらい進んでいるかは分からない部分も多いので、あと 5 年くらいしたら本当にロボット分野とかで凄いインパクトのあるものを世に出しているのかもしれない。 それを期待しよう。 最後に年表が載っているが「岡野原、小学校低学年で表計算ソフトを使って惑星の軌道を計算」というのが出てきて笑ってしまう(凄すぎる)。

  • HOW GOOGLE WORKS amazon へのリンク
    Google の文化・戦略・人材といった特徴がどのように形成されているかを、元 CEO の Eric Schmidt を始めとする中の人が解説した本。 スマートクリエイティブなる「多才で専門性とビジネススキルと想像力を併せ持った人々」を採用して自由度高く働かせることが特に重要で、データに基づいた意思決定をすること、情報をオープンにすること、ユーザーファーストであること、イノベーションを起こすために発想を大きくしてかつ良い失敗をすること、などがちょっとしたエピソードと共に繰り返し強調されている。 ソフトウェアの時代になって一人の人間が社会に与えるインパクトが大きくなっているが、そうした時代にいかに個を重視して実力が発揮できる舞台を準備するかという内容になっていると思う。 プロダクトの差異を技術で作り出せというのはよく言われる話であるが、後発で検索に入って世界を変えたのは凄いことだし、自分たちの得意領域が検索だと信じてそこに bet したから成し遂げられたことだと思う。 ちょっと薄いエピソードが数多く並べられていて Google は凄いぞというのを全面に出している感じがしたので、全体的にはあまり好みではなかった。

  • 1兆ドルコーチ amazon へのリンク
    Eric Shcmidt や Larry Page, Steve Jobs のようなシリコンバレーの錚々たるメンバーをコーチした Bill Campbell という人物についての本。 大いなる愛を持って良いチームを作るために有益なアドバイスをしてくれたという人物で、人と人とのコミュニケーションを重視するというビジネス界ではあまり重視されない(とされる)面に尽力していた。 how to 的な要素も少しあるが、基本的には信頼こそが重要であることを様々な角度から説いている感じ。一緒に働く人が重要、的な話がよくあると思うが、それを Bill Campbell という人物を通して理解できるような本になっている。 優れたアスリートにコーチが必要なように、優れた経営者にもコーチが必要だというのはしっくりくる言い回しだなと思った。 ただ、本人曰く「自分のために働いてくれた人や、自分が何らかのかたちで助けた人のうち、すぐれたリーダーになった人は何人いるだろうと考える。それが自分の成功を図るものさし」とのことでコーチをした際の報酬もほとんど受け取らなかったとのことらしいが、その人物を描く本のタイトルが「1兆ドルコーチ」というのはなかなかに下卑た感じがしてしまうのだが…

  • ティール組織 amazon へのリンク
    人類のパラダイムと組織の発達段階を整理し、ティール(青緑色)という新しい組織体系を論じる本。 自分と他人の区別がない無色から始まり、数百人規模(しかし世界の中心は自分)のマゼンタ、数万人規模で恐怖による支配を実行するレッド、農業や官僚制というアンバー(橙色)、科学とイノベーションのオレンジ、物質主義の反動としてのコミュニティであるグリーン、その次がティールである。 ティールでは、自主経営、全体性、存在目的、を重視していて、ヒエラルキーがなく個々人が会社全体もしくは社会全体を意識した意思決定をしていくスタイル。 ちょっとスピリチュアル的な感じが出てしまうが、賃金などの外発的なモチベーションではなく、真に自分が良いと信じられることをするという内発的モチベーションが大きな力を生むというものになっている。 会社内におけるある種の性善説的な信頼によって各人の裁量が大きく認められていて、意思決定をするには承認を得るのではなく助言を求めてそれに基づいて自分で判断する、という形が広く用いられているよう。 細かい部分の感想は書き切れないが、インセンティブに基づく自由競争の歪さから脱却し、内発的なモチベーションを拡張して信念に基づいた意思決定ができるようになる、というのがパラダイムシフトなのだろう。 ティールが経済的にも勝ちうるか、ということはいくつかそういう事例もあるけどまだまだ不明瞭とは思うが、そもそも世界が経済的な成長を追求しないようになるのかもしれない(あまり想像できないが)。 内発的なモチベーションで行動していくというのは個人では難しいと思うが(世界の真理を解き明かしたいといって 10 年も一般相対論を構築し続けれる人はいわゆる天才だけだろう)、組織という共同体の存在によって個々人の内発的モチベーションが高められるというのは興味深いと思う。自分はそうなったことがないが、今後そうなったりし得るだろうか。 結構面白いのだが、ちょっとお気持ち的な話が多いのもありページ数がかなり膨らんでいる印象。600 ページくらい。

  • 1984年 amazon へのリンク
    攻殻機動隊の新作を観てたら、自分はまだこれ読んでないな〜と思って読んだ。 監視と事実の改竄による全体主義的な統制、というテーマで最後の方の拷問シーンとかが長くて読んでて苦しくなる。 自由は隷従である、これは逆に読んで隷従は自由であるということで党への隷従によって自由を得るという、寡頭支配を実現させるための全体主義そのものだった。 思考警察とか二重思考とか、概念の切れ味が凄い。 2+2=5 です。

  • ホラクラシーの光と影 amazon へのリンク
    ザッポスの例を取り出しながらホラクラシーの利点と難しい点を述べるというもの。 難しい点は属しているサークル数が多いとそれらの調整での会議が多くなったり報酬設計をどうするか困難になったりということ。 個人的には組織に浸透させるには複雑すぎると思うんだけどなぁ。 これ自体は内容が薄くてあまり得られるものがなかった。

  • Holacracy: The New Management System for a Rapidly Changing World amazon へのリンク
    ホラクラシーの正典的な本。 提唱者の Brian J. Robertson が書いた本。 そもそも Holacracy は Holon + Democracy の略語で、前者は The Ghost in the Machine で出てきた概念で、同時に部分と全体を成すものである。部分が全体を成し、その逆も然りということでやや難解な概念であるが、少数のチーム(これはホラクラシーではサークルと呼ばれる)の集合体が会社となるが、そのチームは会社の中の小さなまとまりというよりある面で会社の機能そのものを表すようにもなっている。 人でなく役割を中心に組織構造を構築し、その組織構造をダイナミカルに更新し続ける revolutionary organization がホラクラシーであり、権限を分散させてそれぞれの役割がそれに関わる意思決定権を持つようになる。 例えばどのように役割を定めるか、というと tension と呼ばれる仕事をする上での不都合を発見したらそれを会議に持ち込み、必要と認められれば役割が生まれ人が assign される。この governance meeting は定期的に行われる。この meeting は進め方などが厳格に決まっている。 このようにホラクラシーではかなり決め事が多い。ホラクラシー憲法があってそれに則るように行動する必要がある。相当の練度が必要になるという印象を受けた。 実際のところこのような仕組みを導入することでどれくらい組織が変わるかということはあまりイメージが湧かないが、全社的にかなり力を入れないとそもそもまともに検証できないくらいの複雑さがあると思った。 久々に技術書以外を英語で読んだらめちゃ時間がかかった。

  • NO RULES amazon へのリンク
    ネットフリックスカルチャーの本。 自由を与えて責任を持って行動する集団を作り上げ、チャレンジして失敗を通じて学んでイノベーションを起こしていくためにどういう文化を作っているかの話。 色々書いてあるけど、本質的には、高級で良い人を雇い、合わなかったらクビにする(訴訟などを起こさないように退職金は大量に)、ということでマッチしている人だけに保つということなんだろうね。 大体の会社は真似できなそうだけどw コンテキストは共有するけど、意思決定するのはそのタスクをする人、というのは自分のいる会社でも意識はされてるけど、まだまだ徹底はできてないと感じる。もっと意思決定力を高めていく必要を強く感じた。 情報として有用だったのは最後の国際化の章かな。 フィードバックをするときに日本のような間接的なコミュニケーションをする文化では、日常で実行していくというよりもオフィシャルな場を設定した方がうまくいく、というのは自分の経験則ともマッチするな。これは採り入れていきたい。

まとめ

仕事を始めて会社で色々と新しい組織的な取り組みをしているので、組織系の書籍を読むことがまあまあ多かった。
技術書は振り返ってみると少ない感じがするな〜。論文を読んだりインターネット上のドキュメントを読んだりという割合が多いということだとは思うけど、良質な本は読んでて楽しいのでもう少し意識して摂取していってもいいかな〜と思った。